曇天焉んぞ 序 BOY and YOUNG MAN
In the Case of the Boy
走れ。
お前は走らねばならぬ。
まだお前が見たことのない故郷へとおまえは走らねばならぬ。
たとえここがお前が恐れる大自然の中、雪に覆われた森の中だとしても。お前がどんなに若くても。
たとえどんなに困難がお前を待ち受けていたとしても。
お前は走ってあそこにたどり着かねばならない。
走っておくれ。
走って着いたその先で、果たしておくれ。
私と交わした約束を。
In the Case of the Young Man
教会のステンドグラスを通して教会内に入る神々しい光。
まるで”我らが”新たなる皇帝を祝福しているかのようだ。
そう思って青年はふと微笑を浮かべた。
誇り高きスメラ一族のヒコとして生を受けた自分は、今は奴隷の身である。しかし、生まれ持った矜持やなによりその意志は捨てたわけではない。尚更それが己が敬愛する、奴隷のみである己を息子のごとく愛しんでくれた先帝陛下のものであるならば。
そう――。
青年は思う。
己はこの意志を現実のものとさせねばならぬのだ。
たとえ私がセカイを壊すことになったとしても。