君と私が出会ったとき ソロモンの追憶0
強い日差し、そして砂漠。それがこの地の昼間を構成する殆どであるはずだった。
それなのに。
日差しとはまた別にこの、肌を刺すような痛みはなんなのか。若者はこれ地面に膝をつきながら、顔をしかめながら思った。じゃあ、まるで夜のようーーいや、夜以上の寒さではないか。
人が見当たらない場所で彼と会って正解だった。頭のどこかで冷静に考えながら、若い王子は必死に寒さに耐えようとした。オアシスの植物も全て凍っている。なんという力だ。自分がこのような薄着にもかかわらず、凍っていないのは、一重に彼の温情によるものだろう。
そのように若い王子が思っているところへ、彼の裸足が地面を、凍ってしまった砂を踏みしめる音が近くでした。
「恐ろしいか」
無感情に歩み寄って来た、同じ年ほどの容貌のジンが口を開いたーー最も、実際には彼とは父と子ほどに年は離れているが。
彼は若い王子以上の薄着で、入れ墨の掘られた繊細なようで丈夫な長い腕を露出させているが、全く寒さに堪えている様子を見せていない。そして、アッカド(南方・現イラクあたり)産の毛織物以上の質で艶のある布を纏っている。しかし、それはどういう訳か、この地には殆どない黒色で染められている。装飾は黄金の胸飾りしかないが、それでも十分に彼が高貴な、そして裕福なものであることが一目でわかる。
彼の先ほどまで黒かった瞳は金色で、縦長の瞳孔、白い髪と相あまって、彼の人外の雰囲気を強めている。確かに彼は人間であったはずなのに、そしてその時代を若い王子は知っているはずなのに、その面影がもはやもう、見られない。
「いいえ」
でも、若い王子はーー私は恐怖をかみ殺して、必死に恐怖心を否定した。まず私の心にあるのは動揺だ。幼心に覚えていた記憶と現実があまりにも違い過ぎて。私はとてもじゃないが、冷静を保てない。
どうしてですか。
どうして、あんなにお優しかったあなたが、こうならなければいけなかったのですか。
「そうか」
ジンは氷に膝をついて、私と視線を合わた。そして、また無感情に言った。
「アディドヤよーー髪に愛された子供よ。私は神とやらを憎む」
どうしてですか。
どうして、あなたはそんなことをいう人じゃなかった。あなたはわれらが四文字を敬愛していたーー仕えていたではないですか。なのに、なんで憎むのですか。そしてなぜそんなに楽しそうなのですか。
ジンは立ち上がって私を見下ろした。まるでこれは私の知らない人のようだ。
「故に、私はお前とお前の父、そしてその末の敵であり続けることを望む」
どうしてですか、 様。
私は必死にそう叫ぼうとした。――体力的に不可能であったけれども。
足搔く私を視界の端にとらえながら、あなたは全世界に宣言した。
「わが名はサタン!神とその僕の敵なり!」
ねえ、でも、その宣言、私には疑問しか与えないよ、 様。
どうしてあなたはそうなったのですか。